1. 児童福祉法とは

児童福祉法は、昭和22年（1947年）に制定された、日本における児童福祉の根幹をなす重要な法律です。この法律は、すべての児童が心身ともに健やかに生まれ、育成されることを保障し、児童の福祉を積極的に増進することを目的としています。戦後の混乱期において、戦災孤児や貧困に苦しむ子どもたちを救済するため、緊急的に制定されたこの法律は、時代とともに改正を重ね、現代の多様な児童福祉ニーズに対応する包括的な制度へと発展してきました。

2. 児童福祉法の歴史的背景

制定当初は戦災孤児対策が中心でしたが、高度経済成長期を経て、児童虐待、障害児支援、子育て支援など、社会情勢の変化に応じて対応範囲が拡大してきました。特に平成に入ってからは、児童虐待の深刻化を受けて、予防から早期発見、保護、自立支援まで一貫した支援体制の構築が進められています。

3. 基本理念と目的

児童福祉法は、18歳未満のすべての児童を対象とし、その福祉を保障するための包括的な制度を定めています。法律の中核となる理念は、「児童の最善の利益」を最優先することです。これは単に児童を保護の対象と見るのではなく、児童を権利の主体として尊重し、その意見を聴き、その意見を尊重するという姿勢を意味します。

具体的には、児童相談所の設置、保育所や児童養護施設などの児童福祉施設の運営、児童手当の支給、母子保健サービスの提供など、多岐にわたる施策が展開されています。また、近年では地域社会全体で子どもと家族を支える「地域包括ケアシステム」の構築も重要な課題となっており、市区町村が中心となって、妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援を提供する「子育て世代包括支援センター」の設置が進められています。

4. 児童福祉サービスの実態

児童福祉法に基づく主要なサービスには、保育サービス、児童虐待対応、社会的養護、障害児支援などがあります。保育所は全国で約24,000カ所設置され、約210万人の児童が利用しています。待機児童問題に対応するため、認定こども園や小規模保育事業など多様な保育サービスが展開されています。

児童相談所は全国に約230カ所設置され、年間約22万件の相談に対応しています。特に児童虐待相談は増加傾向にあり、令和4年度には約21万9千件と過去最多を記録しました。これに対応するため、児童福祉司の増員や一時保護所の拡充が急務となっています。

5. 統計データで見る現状

このグラフが示すように、児童虐待相談対応件数は過去5年間で約1.4倍に増加しています。これは虐待そのものの増加だけでなく、社会の意識向上により通報が増えていることも要因として考えられます。相談内容の内訳では、心理的虐待が最も多く約6割を占め、続いて身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順となっています。

6. 現代の課題と展望

児童福祉法が直面している現代的課題は多岐にわたります。まず、児童虐待の深刻化と複雑化です。核家族化や地域社会のつながりの希薄化により、孤立した子育て家庭が増加し、虐待リスクが高まっています。また、デジタル社会の進展により、SNSを介したいじめや性被害など、新たな形態の児童への危害も出現しています。

待機児童問題は改善傾向にあるものの、地域による偏在や保育士不足という構造的問題は依然として残っています。さらに、社会的養護の分野では、施設養護から家庭的養護への転換が求められており、里親委託率の向上が重要な政策課題となっています。障害児支援においても、発達障害への理解促進と早期支援体制の整備が急務です。