1. 社会福祉の黎明期 – 慈善から権利へ

欧米の社会福祉は、キリスト教的慈善から始まりました。中世ヨーロッパでは教会が貧民救済の中心的役割を担い、修道院や聖職者による慈善活動が社会保障の原型となったのです。

しかし、この時代の救済は恩恵的性格が強く、受給者は社会的偏見にさらされていました。それでも、社会全体で困窮者を支えるという思想の萌芽は、後の福祉国家建設への重要な礎となったのです。

2. 産業革命と社会問題の顕在化

18〜19世紀の産業革命は、社会構造を根本から変革しました。都市部への人口集中、劣悪な労働条件、児童労働の常態化など、新たな社会問題が次々と表面化したのです。

チャールズ・ディケンズと社会改革

文学者チャールズ・ディケンズの作品は、当時の社会問題を生々しく描写し、社会意識の覚醒に大きな役割を果たしました。「オリバー・ツイスト」や「クリスマス・キャロル」は、単なる小説を超えて社会改革運動の原動力となったのです。

3. 近代社会保障制度の誕生

19世紀後半、ドイツのビスマルクが世界初の社会保険制度を創設しました。疾病保険法（1883年）、労災保険法（1884年）、老齢・廃疾保険法（1889年）の制定は、社会福祉史における画期的な転換点でした。

この制度は拠出制原理に基づき、労働者の権利として社会保障を位置づけた革命的な発想でした。単なる慈善ではなく、社会連帯に基づく相互扶助制度として機能したのです。

4. 戦後の福祉国家建設

第二次世界大戦後、ベヴァリッジ報告（1942年）に基づくイギリスの福祉国家建設は、現代社会保障の理念を確立しました。「ゆりかごから墓場まで」のスローガンのもと、包括的な社会保障制度が構築されたのです。

北欧モデルの発展

スウェーデンやデンマークなどの北欧諸国では、社会民主主義の理念に基づき、高福祉・高負担の福祉国家モデルが発達しました。これらの国々では、社会保障が市民の基本的権利として確立され、格差の少ない社会を実現したのです。

5. 現代への影響と教訓

欧米の社会福祉発展史は、人間の尊厳と社会正義の実現に向けた不断の努力の記録です。慈善から権利へ、選別から普遍へ、そして持続可能な制度設計への挑戦は、現在も続いています。

少子高齢化、グローバル化、技術革新といった新たな課題に直面する現代社会にとって、これらの歴史的経験は貴重な教訓を提供しています。