福祉の歴史と地域の力 ― おたがいさま精神はどこから来たのか？

1. 「おたがいさま」の起源とは？

日本には昔から、「困ったときはおたがいさま」という言葉があります。このおたがいさま精神は単なる習慣ではなく、地域に根ざした支え合いの文化として長年にわたり受け継がれてきました。

たとえば、江戸時代の農村では、「結（ゆい）」と呼ばれる助け合いの仕組みが存在し、田植えや家屋の修繕を地域住民が協力して行っていました。このような制度は、国家に頼らずとも「生きる術」を地域で共有していた証です。

日本の社会福祉の制度化は、明治時代以降に始まりました。それまでは、寺社や町内会、隣保制度といった、地域が中心となる非制度的な支援が主流でした。

明治政府による「恤救規則」（1874年）は、日本で初めての国家による救貧制度ですが、対象はあくまで「真に困窮した者」に限られ、地域の互助が不可欠な社会構造は依然として続いていました。

昭和時代に入り、「生活保護法」（1950年）が制定され、福祉国家の基盤が整いましたが、それでも地域社会のネットワークは重要な役割を果たし続けてきました。

現代においても、高齢化・孤立・災害といった課題に直面する中で、地域福祉の力が見直されています。子ども食堂や見守り活動、地域包括支援センターなどは、まさに「おたがいさま」の延長線上にある活動です。

東日本大震災や新型コロナウイルスのような危機の際にも、地域住民が主体となる助け合いが被害を最小限にとどめる鍵となりました。制度だけに頼らず、「顔の見える関係性」がいかに力を持つか、私たちは実感しました。

福祉とは、行政だけが担うものではありません。一人ひとりが、日常の中でできる“支援のかたち”を持っているのです。

「福祉の原点は地域にある」――この言葉は決して過去の話ではありません。地域福祉の歴史をたどることで、私たちの中にある“支える力”を再発見できます。

これからの福祉は、制度と心、どちらも大切にしてこそ真の支援になる。そんな未来を、私たち一人ひとりがつくっていきましょう。

「福祉って、誰のためにあるの？― 歴史が語る“支援”のかたちについて」
貧困、障害、孤立…支援の原点に立ち返り、社会福祉の役割を深く掘り下げます。あなたの“当たり前”が、変わるかもしれません。

松村祥子『福祉と地域社会の歴史』ミネルヴァ書房, 2018年
厚生労働省「地域共生社会の推進」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189191.html
論文：佐藤信『地域福祉における住民主体の支援システム』社会福祉学 Vol.54 No.2, 2013
YouTube：「おたがいさまの福祉」NHK福祉チャンネル