医療と倫理 ― インフォームド・コンセントの意義

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目次

1. インフォームド・コンセントとは

インフォームド・コンセント(Informed Consent)とは、医療従事者が患者に対して、病状や治療内容、予想される効果や副作用、代替手段などの情報を十分に説明し、患者がそれを理解した上で治療に同意するという、医療の基本的な倫理原則の一つです。

この概念は、単なる「説明」ではなく、患者が自らの意思で選択することを可能にするためのプロセスです。自己決定権の尊重という視点から、医療行為のあらゆる場面において重要な意味を持ちます。

2. 社会福祉における意義

社会福祉の分野においても、インフォームド・コンセントは極めて重要な倫理的基盤となっています。たとえば、高齢者や認知症の人々、知的障害者など、意思決定に支援が必要な人々に対しても、できる限り本人の理解を促し、選択の機会を保障することが求められます。

厚生労働省の「成年後見制度の運用指針」でも、自律性の尊重が基本に置かれており、本人の意思確認とそれに基づいた支援の実施が強調されています。

3. 現場における課題と実例

現実の医療・福祉現場では、インフォームド・コンセントの実践にはさまざまな困難が伴います。たとえば、説明が専門的すぎて理解されない、本人よりも家族の意向が優先される、医療者と患者の信頼関係が構築されていないといった問題です。

長崎県の実例報告では、患者本人には説明があったものの、家族への情報提供が不十分だったために治療方針に対する不信感が生まれたという事例があります(長崎県保健所事例集, 2016年)。このような事例は、医療と福祉の連携不足が背景にあると考えられます。

また、熊本大学の研究によると、医療ソーシャルワーカーが患者と医療者の間に立ち、意思決定支援の橋渡し役を果たすことの意義が指摘されています。

4. 今後の展望と連携の必要性

これからの社会では、高齢化の進展や認知症の増加に伴い、本人の意思表明が難しいケースが増えていきます。そうした中でも、本人の意思を尊重する姿勢と、専門職の協働による支援がより一層重要になります。

たとえば、インフォームド・アセント(assent)やディセント(dissent)などの概念を用いて、本人の反応を読み取る取り組みも求められます(千葉大学倫理研究論文, 2019年)。

福祉施設、病院、在宅医療といった多様な現場で、職種を越えた連携が不可欠であり、チームアプローチによる包括的な支援体制の整備が今後のカギとなります。

5. 次回予告

次回のテーマは「予防医学の役割と現代社会の課題」です。一次・二次・三次予防の考え方をもとに、生活習慣病の予防、ワクチン接種の重要性、そして健康寿命の延伸に向けた社会の課題について深掘りしていきます。

参考文献・関連リンク

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