労働者災害補償保険法とは

労働者災害補償保険法（労災保険法）は、1947年に制定された日本の社会保険制度の一つです。業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行うことを目的としています。

労災保険の適用範囲と対象者

労災保険は原則として、労働者を一人でも使用する事業に強制的に適用されます。正社員だけでなく、パートタイム労働者、アルバイト、日雇労働者も含まれ、雇用形態を問わず保護の対象となります。保険料は全額事業主が負担し、労働者の負担はありません。

保険給付の種類と内容

労災保険の給付は、業務災害に関する保険給付、通勤災害に関する保険給付、二次健康診断等給付の3種類に大別されます。主な給付内容として、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付があります。

主要な給付内容

• 療養補償給付：治療費の全額を支給（自己負担なし）
• 休業補償給付：賃金の80%を補償（休業4日目から）
• 障害補償給付：障害等級に応じて年金または一時金を支給
• 遺族補償給付：労働者が死亡した場合、遺族に年金を支給

労災認定の実態と統計データ

2023年度の労働災害統計によると、死亡災害は774件、休業4日以上の死傷災害は135,371件となっています。産業別では製造業、建設業、陸上貨物運送事業での災害が多く、全体の約50%を占めています。また、精神障害による労災請求も年々増加傾向にあり、2023年度は3,000件を超える請求がありました。

特別加入制度について

労災保険は原則として労働者のための制度ですが、中小事業主や一人親方など、労働者以外でも業務の実情から特に保護する必要がある場合には、特別加入制度により労災保険に加入することができます。2024年現在、約190万人がこの制度を利用しており、フリーランスや個人事業主の増加に伴い、その重要性が高まっています。

最近の動向と課題

近年、働き方の多様化に伴い、労災保険制度も変化を求められています。テレワークの普及により、在宅勤務中の災害認定基準の明確化が進められ、2023年には具体的なガイドラインが示されました。また、過労死やメンタルヘルス不調による労災認定件数の増加を受け、予防対策の強化が喫緊の課題となっています。

さらに、ギグワーカーやフリーランスなど、従来の労働者の枠組みに当てはまらない働き方をする人々への保護拡大についても議論が続いています。厚生労働省は2024年度から、デジタルプラットフォームを通じて働く人々への労災保険適用拡大に向けた検討を開始しており、今後の制度改革が期待されています。