児童扶養手当法とは

児童扶養手当法は、1961年（昭和36年）に制定された、ひとり親家庭の生活安定と自立促進を目的とする重要な社会保障法です。この法律は、父または母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立を助け、児童の福祉の増進を図ることを目的としています。

現代日本において、離婚率の上昇や社会構造の変化により、ひとり親家庭は増加傾向にあります。厚生労働省の統計によれば、日本全国のひとり親世帯は約142万世帯にのぼり、そのうち母子世帯が約123万世帯、父子世帯が約19万世帯を占めています。これらの家庭の多くが、経済的困難を抱えており、児童扶養手当はまさに生活を支える重要な柱となっているのです。

制度の歴史と背景

児童扶養手当制度の誕生には、戦後日本の社会的背景が大きく関わっています。第二次世界大戦後、多くの戦争未亡人や孤児が生まれ、これらの子どもたちの養育が社会問題となりました。当初は母子福祉法（現在の母子及び父子並びに寡婦福祉法）による支援が中心でしたが、より包括的な経済支援の必要性から、1961年に児童扶養手当法が制定されました。

制度発足当時は、死別母子世帯を主な対象としていましたが、1985年の改正により生別母子世帯も対象に加えられました。さらに2010年の改正では、父子家庭も支給対象となり、男女平等の観点からも大きく前進しました。この改正により、約10万世帯の父子家庭が新たに支援を受けられるようになったのです。

支給対象と支給額

支給対象者

児童扶養手当の支給対象となるのは、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童（障害児の場合は20歳未満）を監護している父または母、あるいは父母に代わって児童を養育している方です。ただし、所得制限があり、受給者の前年の所得が一定額以上の場合は、手当の全部または一部が支給停止となります。

支給額の推移

現在の支給額は、児童1人の場合、全部支給で月額44,140円、一部支給で月額44,130円から10,410円まで所得に応じて決定されます。第2子の加算額は全部支給で10,420円、第3子以降は1人につき6,250円が加算されます。これらの金額は、物価の変動に応じて毎年改定されており、受給世帯の生活水準の維持に配慮されています。

現代社会における重要性

ひとり親家庭の相対的貧困率は50.8%と、OECD諸国の中でも高い水準にあります。特に母子世帯の平均年間収入は約272万円と、全世帯平均の半分以下という厳しい現実があります。このような状況において、児童扶養手当は単なる生活費の補助という枠を超え、子どもたちの教育機会の確保、健康的な生活の維持、そして将来への希望を繋ぐ重要な役割を果たしています。

実際の受給者からは「手当があることで子どもに習い事をさせられる」「進学を諦めずに済んだ」といった声が聞かれます。また、親自身の就労支援や資格取得のための教育訓練給付金など、自立支援策と組み合わせることで、より効果的な支援が実現されています。厚生労働省の調査によれば、手当受給世帯の就業率は年々上昇しており、制度が自立への橋渡し機能を果たしていることが分かります。

課題と展望

児童扶養手当制度は、長年にわたり多くのひとり親家庭を支えてきましたが、現代社会の変化に伴い新たな課題も浮上しています。まず、所得制限の在り方については議論が続いています。現行制度では、前年の所得に基づいて支給額が決定されるため、失業や病気などで収入が急減した場合に即座に対応できないという問題があります。

また、養育費の確保も重要な課題です。日本では離婚後に養育費を継続的に受け取っている母子世帯は約24%に過ぎず、諸外国と比較して著しく低い水準にあります。2020年の民法改正により養育費の取り決めが促進されるようになりましたが、実効性のある制度設計が求められています。さらに、デジタル化の推進により申請手続きの簡素化や、マイナンバーを活用した所得把握の精緻化など、運用面での改善も進められています。今後は、子どもの貧困対策や教育支援と連携した総合的な支援体制の構築が期待されています。