福祉の歴史 ― セーフティネットはどう進化してきたのか？

1. セーフティネットの起源 ― 慈善から制度へ

人類が「誰かを支える」という本能を制度に昇華させた歴史は、宗教と共同体の中に見られます。ヨーロッパ中世の修道院やイスラムの喜捨、そしてアジアの互助組織――これらは福祉の原点であり、セーフティネットの萌芽でした。

産業革命は都市に貧困を集め、社会問題を可視化しました。ドイツのビスマルク政権が導入した社会保険制度は、世界初の国家による福祉政策とされ、国が国民の生活を支えるという「福祉国家」モデルが登場します。以後、イギリスや北欧諸国などでも制度が整備され、国家責任の福祉が標準化されていきました。

日本では1946年に施行された日本国憲法第25条が、生存権の明文化によって福祉国家の礎を築きました。続いて生活保護法（1950年）、児童福祉法（1947年）、老人福祉法（1963年）など、対象別福祉法が整備されました。

1973年の「福祉元年」では、医療費無料化や年金制度の拡充が図られ、「豊かさとともに福祉がある」という時代精神が形成されました。

時代は変わり、非正規雇用や孤独といった新たなリスクが人々を脅かしています。こうした課題に対応するべく、2015年に創設された生活困窮者自立支援制度は、就労支援や住居確保などを多角的に支援する制度です。

また、厚生労働省が提唱する「地域共生社会」の実現に向け、行政と民間、地域が一体となって支援する体制が生まれています。

例えば、岡山県真庭市では、医療・介護・福祉の垣根を越えた「共生のまちづくり」が進められ、地域包括ケアを実現するモデルケースとなっています。

福祉は、単なる施しから、人が人として生きる権利を保障する制度へと進化してきました。セーフティネットの形は時代とともに変わっても、その根底には「誰かの困難を、自分ごととして捉えるまなざし」が息づいています。

そして今、私たちに求められているのは「支援される側」か「する側」かという二元論ではなく、「支え合う社会」への新たな想像力なのです。

次回のテーマ：
\n 「福祉の歴史と地域の力 ― おたがいさま精神はどこから来たのか？」
\n 相互扶助やコミュニティの力に焦点をあて、日本に根づく「おたがいさま文化」の原点を探ります。