1. 社会福祉士及び介護福祉士法とは何か

社会福祉士及び介護福祉士法は、1987年（昭和62年）5月26日に制定された、日本の福祉を支える2つの国家資格を定めた画期的な法律です。この法律の目的は明確で、社会福祉士及び介護福祉士の資格を定め、その業務の適正を図ることで、社会福祉の増進に寄与することにあります。

法律は全5章から構成されており、総則、社会福祉士に関する規定、介護福祉士に関する規定、両資格者の義務、そして罰則が細かく定められています。この体系的な法律により、福祉専門職としての地位が確立され、利用者への質の高いサービス提供が保証されるようになったのです。

2. 法律制定の背景と意義

1980年代、日本は急速な少子高齢化に直面していました。高齢者人口の増加に伴い、介護ニーズが劇的に高まる一方で、専門的な知識と技術を持った介護人材は圧倒的に不足していました。この深刻な社会問題に対応するため、国は介護を専門職として確立し、社会的認知を高める必要性を痛感したのです。

それまで介護は、特別な資格がなくても行える仕事と見なされていました。しかし、高齢者や障害者の尊厳を守り、自立した生活を支援するには、高度な専門知識と技術が不可欠です。この法律の制定により、福祉の仕事は初めて「国家資格を持つ専門職」として位置づけられ、社会的な評価も大きく向上しました。

3. 2つの資格の定義と役割

社会福祉士とは

社会福祉士は、身体的・精神的・経済的な不安や負担を抱える人々に対して、専門的知識及び技術をもって、相談、助言、指導、その他の援助を行う専門職です。高齢者福祉、障害福祉、児童福祉、医療、教育、司法など、実に幅広い分野で活躍しています。特に注目すべきは、高齢者福祉関係の就労が全体の43.7％を占める一方で、様々な社会問題に対応できる多様性を持っていることです。

介護福祉士とは

介護福祉士は、身体や精神に障害を持つ人々に対し、その人の状況に応じた身体介護や生活支援を行う専門職です。医師や看護師の指示のもとで、一定の研修を受ければ喀痰吸引や経管栄養といった医療的ケアも提供できるようになりました。利用者の尊厳を守り、自立した日常生活を支えるという重要な使命を担っています。

4. 登録者数の推移と現状

両資格の登録者数は、法律制定以来、驚異的な成長を遂げています。社会福祉士は平成元年に168人だったのが、平成30年には226,283人と、実に1,300倍以上に増加しました！介護福祉士に至っては、令和5年9月時点で194万317人もの登録者を数え、福祉業界を支える巨大な専門職集団となっています。

特筆すべきは、ここ5年間で毎年約6万人もの介護福祉士が新たに登録されているという事実です。これは、福祉ニーズの高まりとともに、専門職としての社会的認知と魅力が向上している証拠と言えるでしょう。ただし、社会福祉士の就業率は78.5％、介護福祉士は58.4％となっており、資格を持ちながら現場で働いていない「潜在有資格者」の活用も今後の課題です。

5. 資格取得者に課される重要な義務

社会福祉士及び介護福祉士には、専門職としての高い倫理観と責任が求められます。法律では明確に5つの重要な義務が定められています。

誠実義務

担当する者が個人の尊厳を保持し、自立した日常生活を営むことができるよう、常にその者の立場に立って誠実に業務を行わなければなりません。この規定は2007年の法改正で追加され、利用者中心のサービス提供を法的に義務付けた画期的なものです。

信用失墜行為の禁止

社会福祉士又は介護福祉士の信用を傷つけるような行為をしてはなりません。違反した場合は、登録の取り消しや名称使用の停止処分を受ける可能性があります。

秘密保持義務

正当な理由なく、業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはなりません。この義務は資格を失った後も永続的に適用され、違反すると刑事罰の対象となる極めて重い義務です。

資質向上の責務

社会福祉を取り巻く環境の変化による業務内容の変化に対応するため、相談援助又は介護等に関する知識及び技能の向上に努めなければなりません。継続的な学びが専門職の証なのです。

連携の責務

福祉サービス関係者、医療、保健、教育などの関係機関との緊密な連携を保たなければなりません。現代の福祉は多職種連携なくしては成り立たないのです。

6. 医療的ケアの拡大と法改正

2012年の法改正は、介護福祉士の業務範囲に革命的な変化をもたらしました。それまで医師や看護師しか行えなかった喀痰吸引や経管栄養といった医療的ケアを、一定の研修を受けた介護福祉士も実施できるようになったのです。

この改正により、高齢者施設などで医療的ケアが必要な利用者への対応がスムーズになり、介護の質が大きく向上しました。ただし、医療的ケアを行うには、勤務先が「登録喀痰吸引等事業者」として登録されている必要があり、医師や看護師の指示のもとで行うという厳格な条件が設けられています。利用者の安全を最優先にした、慎重かつ画期的な制度改革でした。

7. これからの展望

2025年には団塊の世代が全員75歳以上となり、2040年には高齢者人口がピークを迎えると予測されています。介護ニーズは今後さらに急増し、社会福祉士と介護福祉士の需要は飛躍的に高まっていくでしょう。

国は処遇改善や研修制度の充実など、人材確保に向けた施策を次々と打ち出しています。地域包括ケアシステムの構築においても、社会福祉士はコーディネーターとして中心的な役割を期待されています。また、高齢者分野だけでなく、児童虐待、いじめ、不登校、生活困窮者支援、司法福祉など、社会問題が多様化・複雑化する中で、社会福祉士の活躍の場はさらに広がっています。

社会福祉士及び介護福祉士法は、単なる資格制度を定めた法律ではありません。それは、誰もが尊厳を持って生きられる社会を実現するための、希望と可能性に満ちた法律なのです。これからも時代に合わせて進化を続け、福祉の未来を切り拓いていくことでしょう！