1. 質的調査とは何か

質的調査（qualitative research）は、数値では表現できない人間の経験、感情、意味を深く理解するための研究手法です。量的調査が「どれだけ」を問うのに対し、質的調査は「なぜ」「どのように」という問いに答えることを目指します。

この手法は、社会学、心理学、教育学、看護学などの分野で広く活用されており、現象学的アプローチや解釈学的パラダイムに基づいています。研究者は参加者の主観的な世界に寄り添い、その内側から理解を深めていくのです。

2. 質的調査の主要な方法

インタビュー法

半構造化インタビューや深層インタビューは、質的調査の中核をなす方法です。研究者は参加者と対話を重ね、語られる言葉の背後にある意味や文脈を丁寧に読み解いていきます。ここでは信頼関係（ラポール）の構築が不可欠となります。

参加観察法

エスノグラフィーとして知られるこの方法では、研究者が実際にフィールドに入り込み、参加者と同じ環境で時間を過ごします。文化人類学から発展したこの手法は、現場の空気感や暗黙知を体感的に理解することを可能にします。

フォーカスグループ

複数の参加者によるグループディスカッションを通じて、相互作用の中で生まれる意見や認識を探ります。参加者同士の対話が新たな気づきを生み出す、ダイナミックな調査法です。

3. 質的調査のプロセス

質的調査は、明確に定義された段階を経て展開されます。まずリサーチクエスチョンを設定し、適切なサンプリング戦略（目的的サンプリングや理論的サンプリング）を採用します。

データ収集後は、テクストの意味を丹念に解釈する分析作業が始まります。グラウンデッド・セオリー・アプローチでは、データから帰納的に理論を構築します。内容分析やテーマ分析を通じて、語りの中に潜むパターンやカテゴリーを抽出していくのです。

質的調査の信頼性を高めるため、トライアンギュレーション（複数の方法や視点による検証）やメンバーチェッキング（参加者による確認）といった手法が用いられます。

4. 質的調査の実例

5. 質的調査の意義と課題

質的調査の最大の強みは、人間の複雑で多様な経験を、その豊かさを損なうことなく理解できる点にあります。統計では見えない個別性や文脈性を捉え、新たな理論の萌芽を発見することができます。

一方で、研究者の主観性やバイアスをどう扱うか、結果の一般化可能性をどう考えるかという課題も存在します。しかし、これらは質的調査の限界ではなく、むしろ研究者が自己省察を深め、より誠実な研究を行うための重要な視点となるのです。

質的調査は、人間理解を深め、社会をより良くするための強力なツールです。数字では語り尽くせない人間の真実に迫る、情熱と洞察に満ちた研究の旅が、ここから始まります。